中学総合講座「生きること 働くこと 考えること—ゲストを交えて拓き合う 」 第2回
2017.02.15
総合講座の第2回目は、過労死弁護団の弁護士・山下敏雅さんをお迎えして「日本社会と過労死の現在―働くことの意味」というテーマで、お話を伺いました。
山下さんは、まず最初に「皆さん。目を閉じてください」と語りかけた後で、長時間労働など仕事上の理由で自殺された方の家族への遺書を、静かに読み上げられました。その痛ましい内容に、生徒たちは講習の始まりから早くも衝撃を受けた様子でした。その後、この「過労自殺」のケースの具体的な内容と、法的に「過労死」と認定される基準などについて詳しく説明しました。これらの説明を受けたある生徒は、「過労死と言われて最初は、他人事のように思ったけれど、自分の父親もそのくらい働いていると気づいて愕然とし、改めて身近な問題だと考えざるを得なくなった」と発言しました。
山下さんが説明した中で特に印象的だったのは、長時間労働で肉体的にも精神的にも追い詰められている人は、こうした過酷な日常が引き起こす「ウツ症状」によって「心理的視野狭窄(きょうさく)」状態に陥ってしまうということです。つまり、あまりにも長い残業時間によってギリギリの状況に追い込まれた時、「こんな会社だったらやめた方がいい」とか「逃げたっていい」という自分の身を守るための切羽詰まった当然の感情さえも、実は持つこと自体がかなわなくなってしまうという恐ろしい現実でした。これは、現在の「いじめ問題」にも通じる内容だと改めて気づかされました。
最後に山下さんは、最近は、「人権派弁護士」などと世間で揶揄されているが、そもそも弁護士法の第一条に「弁護士は人権を守る仕事」だと書いてあり、すべての弁護士は「人権派弁護士」でなければならない法的義務を負っていると説明しました。そして、改めて「人権とは何か」を、これまで取り組んでこられた「幼児虐待事件」や「少数者差別事件」などにも言及しながら、人権が当たり前に守られている世の中であれば弁護士の仕事はいらないはずであるし、最終的に「過労死弁護団」がなくなることを夢見て、今の活動を続けていきたいという印象的な言葉で閉めました。
授業を受けた生徒の感想を引用します。
「労災が他人事ではないと頭では理解していても、なかなか実感することができていなかった。しかし、弁護士の方の生の声を聞くことで実感でき恐ろしく思った。この事例は、この講座の1回目に、ある先生が言ってくれた『知識は人を救う』という言葉の代表だと思う」
「労働は生きていくためにはしなくてはならない。だがゲストの方もおっしゃっていた通り生きていくために働き、そのせいで命を落とすのは本末転倒である。仕事のあり方について社会全体で考えていく必要があると思う」
「やはり誰もが過労死に対する正しい知識を持つことが大事であると強く感じた。今回の講座が将来自分の命を救うことになるかもしれないので今日学んだことは忘れないようにしようと思う」
最後になりましたが、大変ご多忙な中、生徒たちのためにお話しくださった山下さんに厚く御礼申し上げます。本当にありがとうございました。
3回目の次回は、「仕事としての絵本作りー絵本を通して見えてくるもの」というテーマで、絵本作家のとよたかずひこさんをお迎えしてお話を伺う予定です。
(総合講座担当教員)